ガレージシャンソン歌手として、ソロでのパフォーマンスや、アコーディオニストとのデュオであるガレージシャンソンショー、バンド形式の泥沼楽団など、唯一無二ともいえる独特な世界観をさまざまな活動で繰り広げてきた山田晃士。彼が2007年から取り組んでるバンドが「山田晃士&流浪の朝謡」だ。現在のメンバーは泥沼楽団でも一緒だったドラムのロジャー高橋とトランペットの渡辺隆雄を核に、ジプシー・スイングのギターの名手である福島久雄とウッドベースのベテラン早川岳晴、アコーディオンの田ノ岡三郎が加わった6人編成。メンバーそれぞれ豊富なキャリアを持ち、ジャンルレスに活躍する実力派ぞろいだ。そんな一人ひとりにビジョンを熱く語り、口説き落として結成された、「山田がやりたいと思うことを面白いと思ってくれる面々が、山田の元に集まって和ができるグループ」。バンドというよりも、「いわばセッションの最上級のカタチ」だという。
そこで奏でられる音楽は、ジャズ、ジプシー・スイングや、ミュゼット、ワルツ、ジンタ、ブルース、ラテンなど、さまざまな音楽的要素が混じり合った山田晃士流のワールドミュージック。本人はもっと泥臭く「ヨーロッパ音楽のごった煮」と称した。表現する世界の内容にソロでのパフォーマンスと特別区別しているわけではないというが、「バンドの方が歌手に徹することができるというか、楽しく素晴らしい音に囲まれて気持ちよく泳ぐことができる」という。結果的に、「バンドはバンドでツアーを何回もやることでバンドならではのグルーヴができてきて、ソロはソロで1人でできる世界を追求して、通常の弾き語りとは一線を画すシアトリカルな表現になってきた」。ちなみにソロ作品としては、今年3月にアルバム『Theatre Solo』を発表しているのでぜひご賞味あれ。
そして、山田晃士の歌を聴いて誰もが印象に残るに違いない、彼ならではの世界観を構成する重要な要素が、その歌
詞だろう。ライブ会場などで発売されているシングルCDに収録された初期のトラック〈あんたのスウィング〉では、「墓に唾を吐いて弔ってやろうか/悪魔みたいなあんたが死んだなら/はなむけの変わりに砂をかけてやるさ/それがあんたに似合いの死に化粧/…/あんたの何もかもが大嫌い/見たくない顔 今すぐここから消えてくれ」と、ビートの訊いたジャジーなスイングに、あられもない科白をぶちまける。ロックのように叫ぶのではなく、情感たっぷりに歌い上げるところが山田らしい。「外連味溢るる根無し草スウィング」と掲げるとおり、どの曲の歌詞も、ウィットに富んだユーモアや独特のアイロニーがにじみ出て、しかもそれらが、「ヨーロッパ音楽のごった煮」の中で、日本語としての歌詞としてしっかりと腹の奥までズシリと響いてくるところが真骨頂だ。ボリス・ヴィアンやダダイストたち、セルジュ・ゲンズブールといった偉人たちが纏っていたいかがわしさと真剣さが、換骨奪胎されて見事に定着されているといったら言いすぎだろうか。
「やっぱり和のテイストというか、日本語ならではの表現にはこだわってますね。まあ僕はもうすぐ45になる人間なんだけど、例えばアメリカのSSWからはじまって、ジャック・ケルアックたちビートジェネレーション、そこからボブ・ディランの流れでランボーやボードレールの詩を読んでみたり、ゲンズブールも大好きです。日本では谷川俊太郎さんの詩や、浅川マキさんや友部正人さんが感じてる日本語の魅力、そういうものがごっちゃになって出てきてると思うんです。あと日本のポップミュージックやロックのリリックでは幼いアイロニーの分野ですね。僕もひねくれてるから(笑)」
掘り下げていくとまだまだ出てくるのだが、そんなことは関係なく好きなように聴けばよい。というのも、「山田晃士&流浪の朝謡」のステージ姿を観れば、皆が本当に音楽を楽しんでいるのが瞬時に伝わってくるからだ。「早川さんにしても、ほんとに“ベースを弾く生き物”って感じなんですよね。僕もまだまだなんだけど、歌を歌う行為にだんだん無駄なものが省けてきて、歌を唄う生き物になっていきたいなって、前よりも強く思ってます」
2年ぶりというmorphのライブ。長年音楽に生きてきた大人たちが繰りだす味わい深い世界をぜひ堪能して欲しい。
公認HP
http://orange.zero.jp/zae37596.rose/
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ライブ情報
10/28(木)六本木morph-tokyo
morph-tokyo
8th Anniversary Special Week『待ちあわせ』
w/芳賀俊和(えちうら)、西中葵、CLUB PRINCE
open 18:00/start 18:30
前売¥3,000/当日¥3,500(dr別)
問/morph-tokyo tel:03−5414−2683