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 「ここ最近、ようやく歌を歌うことが楽しいなって、素直に言えるようになったんです」。そう語るのは、来年でソロ活動10周年を迎える黒田倫弘。キャリアは13年におよび、ロックをベースにしたスタイルに、豊かな声の表現力でさまざまな感情を歌い上げ、ライブパフォーマーとしても卓越した才能を発揮するミュージシャンだ。その活動は2006年に結成した自身がボーカルをつとめるバンドSCARECROWにも派生し、現在はソロ活動と並行してダブルでの活躍をみせている。この、よくあるバンドからソロへの移行とは真逆のベクトルも興味深い。

 「それまでずっと1人でやっていて、自分で描いているものが1人だと描ききれない部分を、バンドを組んだら見えてくるのかなと思ったんです。最初はメンバーとのコミュニケーションの取り方に戸惑う時もありましたが、今はスタイルが見えてきたから、正直自分の中でソロと大きな違いはなくなってきてると思います。“歌を歌う”という根本的なところはどんなスタイルでも何も変らないですからね。むしろそれが僕にできるすべてと言ってもいい」

 そこには、これまでのキャリアの中で培われた経験と自信、そして幾度となく繰り返されたであろう自己対話から導きだした答えがある。「10年間ひとつのことをやり遂げるというのは、スゴイなと自分でも客観的に思うし、その間にいろんな人と出合って、応援してくれる人たちの、僕に対するさまざまな愛の形を感じながら、歌い続けてきました。そして、聴いてくれる人やライブに来てくれる人たちが、楽しいとかカッコイイとか感じた瞬間がそれぞれにある。それは彼女ら彼らにとってはすごく宝物であって、夢に向かったり、前に進んでいこうと思ってくれる。僕が歌い続けることでそういう宝物をもっと増やせていけたらいいと思います」。音楽というものは、自己表出や表現を超えたところにもう一つの大きな価値があるのではないだろうか。

 そうした思いをすべて受け入れたうえで、「歌うことが好きだ」__彼はこのことを今回の取材で幾度となく口にした。そしてその発言は、僕にamateur(アマチュア)という言葉の本来の意味を思い起こさせる。つまり、よく誤解されているプロフェッショナルの対義語としてではなく、語源となったラテン語のamator (アマトール)、「愛する人」という意味を。現在の黒田倫弘の音楽に対する姿勢は、誰よりも「歌を愛する人」そのものに思えるのだ。

 それでも、「僕は歌を歌うのは人生の中で2番目ですよ」と彼はさらりと言う。「1番目? それは、普通に生きていること。その当たり前のことを最近ちゃんと考えるようになりました。その中で自分なりに楽しいとか、凄い、こんなの知らなかったということを探していこうというのが人生の中のテーマですね」。彼は人生そのものを愛する人なのかもしれない。

 morphでの出演をふり返ると、オープン間もない2003年に一年を通してマンスリーライブを開催している。打ちこみ、アコースティック、ストリングス、カバー曲、B面(カップリング)曲だけで構成されたライブなど、morphならではの実験的なスタイルの試みを行なって、「ここでしかできない自分の見せ方や、まだ知らない自分を発見する場」となったという。そして来月に決定している最新のソロライブでは、まだ具体的な内容は決めていないといいながらも、「自分の声だけが分りやすく響きわたる空間の中でやるのが虜になった」というアコースティックのシンプルなスタイルを考えている。「単純に、自分の身体と喉で、イメージしているものと近い歌声が出せるようになってきたから」だ。来年の10周年に先がけて、歌い手としての魅力が十二分に発揮される貴重なライブとなるに違いない。

 もうひとつ、今年の6月からは、iTunes Storeで「LIVE DECADE」と題して、ライブ音源を24週連続で1曲ずつリリースしていくというプロジェクトもスタートしている。「今までと違ったアプローチで僕のことを知らない人に聴いてもらいたいというのもありますし、ずっと応援してくれている人たちには、その当時の自分の景色を思いながら楽しんで欲しい」とのこと。ひょっとしたら貴方が聴きに来る9月のライブもリリースされるかもしれない。

公式サイト:http://www.66mk.com/

Interview&text : Eiji Kobayashi


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