morphでワンマンライブを行うなど、過去にも何度か採り上げてきた岐阜県多治見市を拠点に活動しているLack Of Common sense。社会的なメッセージ性の強い歌詞をリアルな言葉で歌い、「常識」の壁をぶち壊して、より広い世界へとリスナーの意識を開かせてきた興味深いバンドだ。しかし、実は昨年11月末にオフィシャルサイト上で、リーダーの松田二郎を除くメンバー６人が脱退するという重大発表がなされていた。バンド内に何があったのか、そして今後の活動はどうなるのか？！ 二郎の携帯へ急遽電話インタビューを敢行した。

　「今後どうしていくかは方向性も含め、まだ何も決まってないんです。方向性も新曲の内容次第ということで、今は山ごもりして曲を作っています」。開口一番そう言った。そもそもなぜメンバーの大量離脱があったのか。「ここ1年くらい他のメンバーのモチベーションが統一できなくて、みんなしんどかったことが大きいと思うんですが、それぞれがバンドでのアイデンティティというか存在意義が薄れてきてしまったというのがあったと思います」。

LOCの活動は単に音楽だけでなく、イベントを通して地元地域を活性化させたりとソーシャルイシューの側面もあり、メンバーも大学院で勉強する者がいたりと個々の関心は様々だったのだが、実際に音楽を作る上では、技術的な面などで中学の頃から活動してきた二郎に負う面が大きく、そのあたりのバランスが難しかったのだろう。「決裂というわけではなくある種納得できるというか、それぞれの道を進むことになりました」。

　続いて現在の曲作りについて訊いてみた。最初に「山ごもり」と言ったが、実際どんな環境なのか説明してもらうと、祖父が生前に住んでいた標高1200mにある家で、そこに機材をすべて運んで制作に打ちこんでいるという。過去にもメンバーで合宿をしたりしていたそうだが、外には雪が積もり、水も水道ではなく川から引いていて、暖房も薪ストーブ。コンビニも数キロ先までなく、「孤立無援」な状態だという。「修行僧が滝に打たれるみたいに精神的に追い込まれるのがいいんです（笑）。僕のなかで曲を作る時に大事なのは世界観の維持ということで、ここでは誰も来ないし、思い付いたことをすぐ音に代えれるっていう意味で孤立した場所はすごいやりやすいんです。そういう状態でひとりでラップしたり歌ったりということを繰り返していると、ある種のトランス状態になるというか、ここならではのものができる気がします」

　当面はひとりで活動していくことになるかもしれいないが、曲作りの面で新しい試みもしているという。「思想を全面に押し出した曲ではないものを逆に意識的につくってみたり、ポップスを作ってるカタルシスとしてアングラな曲を一方で作りつつという感じで、今ちょっと２つを共存させてる感じですね。それと今まではまずテーマありきで、そこへ向かって個々のパズルのピースを嵌めていくという方法でした。そのピースひとつひとつが完成品で、それを組み合わせて更に大きな全体像に完成させていくというか。でも今はそうじゃなくて、言わば粘土をこねながらという感じですね。パーツを取ってみても一個ではまだ漠然とした予兆みたいなものでしかなくて、組み合わせても完成せずに、最後に作り込んでいく。ギターのコードに合わせてメロディーを作って、その雰囲気に乗る歌詞を乗せてみようとか、今までとはまったく違うやり方もトライしています」。

　話を聞いていると、LOCの第２章のスタートの予感が受話器の向こうから確かに伝わってきた。他にも最近ユーラシア大陸を横断していた中学の時の同級生が帰国して遊びに来て、刺激を受けたという話をしてくれた。「中東もエジプトから入ってシリア、ヨルダン、イスラエルと横断してきて、マクロな視点だとあの辺りは戦争ばかりしているというイメージを抱きがちだけど、直接彼から話を聞くと、ミクロな視点では大多数の普段の日常の生活があることが分かってくる。実は僕が音楽でやりたいこともそれ似ていて、伝えたい感情や情報を選び取って描写することによってリスナーの前に新たな別のリアリティを発生させる。実はジャーナリズムと芸術って似ていて、そうやって僕みたいな人間が挟まることによって、新たな場所に行動を喚起することができると思っています」 。

　Lack Of Common sense、彼の信念は変らずに揺るぎないものだった。彼が生み出す次の作品にぜひ注目してほしい。

Interview&text : Eiji Kobayashi