人がたどりつく道は素敵である。ユウサミイ、42歳。彼は2年前、それまでの安定した生活を捨て、かつての夢を再び追いかけるために、自らの曲を、歌をつくりはじめた。自分が本当にやりたいことは何なのか? 伝えたいことは何なのか? 日本を飛び出し、10年近く住み続けたオーストラリア、ゴールドコーストの海辺で、改めて問うた答えだった。
今回、最初に取材資料として、“オーストラリア発のサーフ・ミュージック”と音源を渡されたとき、実は、海外に移住した日本人サーファーのコミュニティから出てきた人生を謳歌する楽しいイメージを勝手に想像してしまっていた。ところが実際に聴いてみると、“雰囲気”だけではないリアルな生き様とでもいったようなもの、ある意味で切実な心の底からのメッセージが自分でも驚くほどに強く胸に響いた。まだ無名かもしれないけれど、これは必ず世の中に拡がっていく本物の歌だと思った。2ndアルバム発売に合わせた全国ツアー中の合間の東京で、彼にその歌の生まれた秘密を聞いた。
母親の実家は浅草の三味線の職人の家だった。民謡の先生でもあり、シャンソン歌手でもある母親の影響を受け、幼少時より音楽に親しみ、彼は13歳でギターを始める。1980年代のバンドブームの頃はプロを目指しライブハウスなどで活動。しかしその夢は様々な理由で諦めざるを得なくなった。一方、大学時代に1年間遊学したオーストラリアで、世界的なサーフィンのメッカでもあるゴールドコーストという「土地」と運命的な出会いをする。「オレはここに住んでいたことがあるんじゃないか?」__デジャヴのような不思議な感覚。2,3日滞在するうちに、「どうしてもここに住みたい」、そう確信する。ビザの期限がきて帰国したあと大学卒業し、宝石鑑定士という資格を取得して再び運命の地へ。「オーストラリアで必要とされる資格を持っていれば、永住権を得るのに有利だと思ったんです。もう音楽はいいやって、ただゴールドコーストに住むことが目標だった。住んでしまえば人生の目標クリアって思ってたんですね」
いくつかの職を経て、家も手に入れ、収入も安定した。目標通り永住権も取得し、ついには世界的な大手ブランドのトップセールスマンに昇りつめ、順風満帆な人生に見えた。しかしそんなとき、満たされない心の空虚に気づいたのだという。「すべてがつまらなくなって、本当に自分のやりたいことをやってないのではないかという思いでノイローゼ状態になってしまったんです」。そこでもう一度時運を見つめ直し、浮上してきたのがミュージシャンというかつての夢だった。
39歳、これまでの人生で積み重ねてきた思い、心の傷、失敗や成功の中で気づいたこと、そして国外に住むからこそわかった大切な日本、若い世代へ伝えたいこと。溢れ出てくるものはとまらなかった。曲を作ると聴いてもらいたくなってCDを作り、友人のサーフショップに置いてもらったり、SNSで知りあった人々に「もしこのCDを気に入ってくれたら一曲だけもう1枚焼いて友達に渡してください」と発送をした。すると、ショップに集まる日本のトッププロたちの口コミで日本でも話題になり始め、フリーダウンロードで開設したHPに見知らぬ人から感謝のメールが届くようになった。友人たちが音楽プロモーション会社を設立し、2007年にアルバムをリリース。気づいたらユウサミイのミュージシャンとしての道がスタートしていた。
「今、日本人は自信を失っているでしょう。でも海外に出た人間だから分かることだけど、日本はまだ全然大丈夫、強い国なんですよ。仕事の能力も日本人が最強です。だからそんなしょぼくれてちゃ駄目だよって言いたい。気持ちを盛り上げていけばもっと本来の活力が出てくるはず。そのためにはもっとみんな仲良くしていかなきゃいけないし、礼儀もとり戻さなきゃいけない。僕たち一人一人が身近なところから出発して、見知らぬ人も自分と同じように大切な人がいて、それぞれがみな繋がって社会ができているということを明確に理解できていけばいけば世の中きっと変ると思うんです」
彼は、自らの歌がその底辺の土台の小さな一つになることを願う。そしてそれは各地で弾き語りライブを体験した人々にも確実に浸透している。心の底に眠っている“何か”が共鳴して呼び覚まされたら、次はあなたが行動する番だ。
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2ndアルバム『どこかの星の下で』
初回限定盤:2,000円(税込) 絶賛発売中!
発売・販売元:R-TRICK JAPAN
official web site :
yusammy.com
Interview&text : Eiji Kobayashi