人がミュージシャンや歌手になるきっかけはさまざまである。毎月いろいろなアーティストに話を聞くたびに感じるのが、それぞれ辿り着くまでの道行きは 違っても、共通しているのは、歌や音楽への“思いの強さ”ということだ。
宮崎で生まれ育った坂本梨.奈は、実家が代々商売をしていたこともあり、人と接するのが好きだった。将来はホテルマンになりたいという夢を抱いて、高校 卒業後に大学進学のため上京。大学を卒業後にその願いを叶えてホテルに就職 し、充実した日々を過ごしていた。そうして2年が経とうとしてた頃、彼女は肺 病を患い、一時的に声を失う。その時に自分にとって大切なことは何だろうと考 え、心の中に浮上してきたのが「うたを歌う」ということだったという。
子供の頃から歌は好きだったものの、プロを目指したりということは全く考え ていなかったし、何か特別に楽器を弾けるわけではない。でも「よし、歌おう」 という思いは誰よりも強かった。そこから作詞作曲、ライブ活動をいきなり始めたのが2004年の夏。その声を認められ、同年にボサノヴァカヴァーアルバム 『BOSSA VOYAGE』シリーズに参加。2006年には1stミニアルバム『Mamma』をリリースし、収録曲「smells like you」でニッポン放送最優秀新人に選ばれることになる。
なにか突然のシンデレラストーリーのようだが、“五感にふれる”といわれるその歌声を聴くと、誰もが納得するに違いない。素直で伸びやかな声は、歌詞も聞き取りやすく、伝えたいことがはっきりと伝わってくるのだ。坂本梨.奈という 名を知らなくても、その声の表現力だけで耳を奪われてしまう。雰囲気やつくりごとではなく、歌い手の気持ちが、目には見えないけれど具体的な形となって現れていると言えばいいだろうか。そこが聴き手の琴線にふれて、感情の起伏が拡がっていく。BGM的に流されるカフェミュージックとは明らかに一線を画すものが彼女自身の中にはある。
その秘密を、彼女は歌をつくる上での大きなコンセプトとして「ひらがなの歌」ということばを挙げてくれた。「“耳から聴いてそのままストーンと心まで落ちる”というのを目指してるんですね。全部ひらがなで聞こえてきて、瞬時に 意味が分かるという。たとえば恋愛の歌だとしても、その歌詞と同じ経験をしていなくても、もっと底辺の部分で分かるような普遍的なもの。そういう気持ちを歌えていけたらいいなと思っています」
そういった彼女の資質をより活かすべく、今年になって新たなプロデューサー を迎え、これまでにない活動を展開している。現在、4月から5ヵ月連続の音楽 配信によるリリースを続けているのもそのひとつで、その中には自作曲の他に、 楽曲提供を受けた新曲も含まれている。6月に配信された「海」はmorphでもお なじみウラニーノの山岸賢介によるもので、山岸ならではの独特の詩が、空間的な広がりをもった世界を生み出した好コラボレーションだ(着ヒット Musicフル のデイリーチャート2位獲得)。「音楽についてのお勉強をしてきていないの で、プロデューサーやサポートミュージシャンの方々にものすごく力を借りているんです」と言う彼女だが、もちろんそこには彼女自身に多くの可能性が秘めら ているからだ。
他にも、大切な家族への感謝の気持ちをこめた「HOME」、片思いの切ない気持 ちをスタイリッシュな香港映画のような見事なメタファーでとらえた「金魚鉢」 (アコースティックバージョンと通常バージョンで見違えるように曲の表情が変 わるのも面白い)、失恋の別れのあとの不安定な心情をうたった「ほしいもの」など、繊細な心の動きをリアルに描き出した彼女ならではの自作曲が毎月ネット 配信されているので、是非HPをチェックしてみて欲しい。
こうして彼女の歌と話を聞いて気づくのは、ホテルでの接客から歌い手への転 身ということが意外というよりも、むしろ必然ではなかったかということだ。「やっぱり人を笑顔にすることが好き」と言うとおり、彼女が聴き手に与えているものは、ホテルマンとしての仕事と地続きにあるものだからだ。多種多様な人 と出会うことで培われた他者への想像力と豊かな感性が、天性の声を通して輝く 笑顔を僕らに降りそそぐ。
http://www.sakamotorina.com/
☆LIVE information @morph-tokyo
2008/07/30
坂本梨.奈/ワカバ/R4switch
時間:OPEN19:00/START19:30
TICKET:前売り¥2000/当日¥2500 (D別)
※4月30日からの配信曲をダウンロードした方には、 オリジナル焼酎などのふるまい酒付き!!
(入場に際に、ダウンロード画面をご提示ください。)