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 唐突だが、「詩人」とは何だろう、誰だろう? 詩を書く人、詩集を出している人、詩で生計を立てる人(どれくらいいるのか?)、いや、「オレは詩人だ」と名乗る人__。ここにひとりの詩人がいる。その名をchori。京都に生まれ、中学生のころから詩を書き出し、世紀の変わり目だったその当時、関西で興隆していたポエトリー・リーディング(詩の朗読)シーンで詩のパフォーマンスに目覚める。以来、ライブハウス、クラブ、カフェ、バーetc.京都を中心にさまざまな場所で積極的にライブ活動を行い、たくさんの言葉をつむいできた。

 まさに「詩人」として生まれてきたように思えるchoriだが、本人曰く、その動機は、「目立ちたがり屋だったから(笑)」だという。「周りの人がしていないことをしようと。あとペンと紙だけあればお金はかからないし。詩集をちゃんと読むようになったのは、むしろ自分で詩人を名乗り始めてからですね。ビートはもちろん、影響を受けたその後の世代、日本ではナナオサカキさんや、佐野元春さん、当時活躍していたカオリンタウミさんなどが好きでした」

 スポークン・ワーズは、声に出して読むことを前提として書かれる詩だ。リーディングも、それを聴く人も、その瞬間その場に居合わせないと意味がない。それは音楽のライブとまったく同じもので、基本的にパフォーマンスそのものが評価される対象になり、なかなか一般には認知されにくい。一方でchoriは活字による表現にも取り組んでいて、2005年に総合詩誌『詩学』による詩学最優秀新人賞を受賞するなど確固とした評価を得ている強みがある。翌2006年には21歳にして処女詩集『chori』を出版。しかもその体裁は一般的にイメージする「詩集」の顔とは違って、音楽誌などで活躍する写真家、徐美姫によるchoriの詩の世界と連動するような写真が配された、作品集という趣になっている。「京都の風景を入れたいということだけあって、徐さんとは撮影日に初めて会ったんですけど、以前から写真は目にしていたし、一緒に京都をぶらぶらして面白いと思ったものを撮っていただきました。ライブはやっぱり現場のものなので、そこに足を運んでもらわないとどうしようもないけれど、本ならば日本中どこにでも届けられるし、販促ツール的な意味でも試してみたかった」。狙い通りに書店の「詩集」コーナーに埋もれてしまわない見事な作品となって、この詩集をきっかけに新しい客層が生まれたという。

 詩集では読まれることを前提にしているので、ライブでリーディングするときとは詩の内容や形式にも工夫がされているが、ライブに近いフォームとして聴けるものとして、CDがある。昨年12月にリリースした2ndアルバム『帰り道のはて』には全17曲が収録されていて、リズムトラックやギターに乗せた、心の芯に直接語りかけてくるような独特のchoriのリーディングが聴ける。また、おそらく詩人としては日本初(?)のPVも制作されており、ライブでもおなじみの代表作の一篇「すべて光」の完成度の高いPVがYouTubeなどで見ることができる。他にも、ミュージシャンとのコラボレーションはもちろん、狂言師、茂山童司とのユニット「chori /童司」で狂言とリーディングをミックスさせた新たな表現を模索するなど、その活動の域はとどまることを知らない。

 choriの詩の題材は、日常の出来事の断片や自らの体験から創作したものが多い。「自己表現のために始めたのではないし、メッセージ性がある詩で訴えたりしたいのでもない」というchoriだが、その声のどこからも、現代に生きる若者の確かな鼓動が、喜び、苦悩、生の輝きが、リアルに伝わってくる。感情的に叫ぶのではなく、心の内を正直に打ち明けるような真摯な語り口は、聴く者に耳を澄まさせ、逆に自らの心と向かい合わせるような作用がある。詩人とは「並んで歩きつつ、半歩前を照らす」存在なのだ。

 実を言えば、choriは茶道の裏千家の家に長男として生まれている。しかし彼は自らを「詩人」として生きようとした。「詩人として発信し続けること」を唯一の存在証明として活動を始めて8年、成長し続ける本物の詩人の姿がここにある。7月には全国16カ所を回るリーディングパフォーマンスのツアー「帰り道のあて」が予定されていて、東京公演となる7/11(金)は、ここmorphが会場になっている。この機会にぜひ、僕らの時代の詩人と出会ってほしい。

http://chori.cc/

Interview&text : Eiji Kobayashi


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