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 Lack Of Common sense(LOC)が来たる5月21日に2ndアルバム『常識の方程式』 を発売する。発売前に行っている全国ツアー(「存在への問い」)の途中、マス タリング作業のために東京の某スタジオを訪れていた彼らを訪れ、約2年ぶりに 話を聞いた。

 曲や詞をつくることは「表現というよりは表出であり、精神のバランスを保つ ためのカタルシスである」とかねてからリーダーであるじろう(Vo&MC)は語っ ているが、この2年の間に溢れ出たその果実は数多く、「ポップなやつもアング ラなやつも、とにかく今回は曲が増えすぎて、アルバムとして折り合いをつける のに試行錯誤した」という。結果、その両方の要素が入っている曲を優先的に選 び、“精神のミクスチャー”を自負するLOCが、新たに咀嚼し創出した成果を確か めることができる。

 その中でまず注目したいのは〈けれども世界に落ちる雪〉という曲だ。男女の 心のすれ違いや切なさを歌ったラブソングでありながら、終盤のリリックではマ クロな世界の問題へと飛躍する。「皆同じもの求めてるのに/それぞれの理屈で いがみ合い奪い合い/気づいたらできてたルールとこだわり/ミサイルが落ちる のは誰の国?」__しかしこの飛躍はロジックのない突飛なものではない。「男 と女でも共通で二人が望んでいることは楽しくやりたいってことなのにそうはい かない。それはもっと大きなレベルでもありうることで、逆に望んでることは一 緒だっていうことを小さいレベル(恋愛)で気づいていければ、問題が大きなレ ベル(戦争)でも扱えるようになれる気がするんです」。じろうがそう解説をし てくれた。LOCが提示するのは、ただ共感と承認を求めるだけに終り、結果異質 なものを排除することになっているのに気づかない巷にあふれる安易なラブソン グとは明らかに一線を画すものだ。 「気づき」ということは、LOCの思想を理解するための一つのキーワードでもあ る。「自分の誇りのために生きろ お前の精神が復活するのを待ってる」と冒頭 呼びかける〈答えは内側に〉という曲も、そのタイトル通り、世間の常識に惑わ されて自閉してしまう者へ、真の覚醒を促す。LOCは、そのようにいつの間にか できてしまった「常識」を疑い、その「方程式」を暴き出すのだ。

 彼らは去年から、じろうや金ちゃん(Gt)、DJ社長(DJ)の出身地でもある岐 阜県多治見市の市民ホールを活用すべく、地元の高校生たちを巻き込み、地域の 商店街や役所とも議論を重ねて音楽イベントを開催している。これも当初は騒音 などのために演奏活動は禁止されているという「常識」が、実は役所や商店街も ホールの多目的な使用や地域の活性化は望んでいたものの、高校生など利用者の 意見を聞かずに開いたイベントが失敗していただけだったという問題があったの だ。この試みは両者に受け入れられ、今年4月には第2回を開催。もともと教育 者を目指していたヨネは、このプロセスをもとに論文を発表したりもしている。 これらの活動もみても、主催者主導でアーティストを呼ぶだけで終る単発の町お こしイベントとはまったく違う意味を持っていることが分かるだろう。

 このように多様な活動をみせるLOCが、「音楽というのはLOCの総体をかいま見 せる一面でしかない」というのも納得だが、きっかけとしてまず触れてほしいの はやはり彼らの音楽だ。兄の結婚を祝福する〈一郎が結婚した〉や、自分の歩ん できた道のりを確かめる〈落書き、教室、また明日 feat.昔のじろう〉といっ た身近なリアルな曲もある。それと同じレベルで、9.11の同時多発テロを連想せ ずにはいられない〈落ち行く飛行機の中で〉では、事件に衝撃を受けたじろうが 「憎しみ」をキーワードにその原因を解き明かし、「こんな世界望んじゃいない  人殺めるような神はいらない」と訴え、「武装蜂起」では、日本語・ハング ル・中国語が混在する歌詞で、偏狭なナショナリズムを否定し、文化による世界 の未来創造を謳う。

 ともすれば過激にも受け取られてしまいかねないLOCのアジテーションだが、 しかし主張はいたって真っ当なものばかりだ。共通しているのは、常識を疑い、 自分で感じ、気づき、行動を起こすように促していること。実際に変わりはじめ た若者たちは全国各地に発生している。ツアーで訪れる先で、LOC自身も気づか ないうちに、オーディエンス同士が(メディアを介さずに!)似たことを考えて いたり、同じベクトルの志向性をもっていることに驚かされるという。その連鎖 の先には、きっと新たな「常識」が生まれるに違いない。
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Interview&text : Eiji Kobayashi


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