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entertainment(エンターテインメント)――日本語で「娯楽」と訳されるこの言葉は、映画や音楽、小説といった分野だけでなく、今や私たちの日常生活のあらゆるシーンで使われている。まるで楽しくなければ罪であるかのように。しかし、あなたは本物の「エンタテインメント」を知っていると断言できるだろうか? 広告産業によってに何十倍にも稀釈され、または逆に肥大化させられたこの言葉のもつ本当の意味を体現する人が前世紀までは確かにいた。その最後にして最大の輝きがマイケル・ジャクソンだろう。'80年代に登場したMTVの可能性にいち早く気づいたこの天賦の才は、歌とダンスと映像を駆使した魔法を発明して、世界中の若者と女性を瞬く間に虜にした。音楽の枠をこえ、その後のあらゆるカルチャーに与えた絶大な影響は計り知れない。

しかし、そんな偉大なポップスターの活動は、今世紀に入って長らく封印され、一般の人にとっては既に生ける伝説と化している状態だ。むしろ巷に流布されるイメージは、汚辱にまみれたゴシップの類が圧倒的だ。それでも彼のパフォーマンスを目にした衝撃を忘れることのない人々は世界中に存在する。今回紹介するパフォーマンスユニットmj-spiritのbluetreeもそんな一人だった。高校の時に見たライブ映像には、「マイケルが登場しただけで失神する女性たちが映しだされていた」という。そして惹きつけられる完璧なパフォーマンスと圧倒的なカリスマ性。「彼はどういう気持ちでこの大観衆の中を踊っているんだろう。自分でこの世界を再現すればその快感が味わえるのではないか?」。そう考えた時から、「マイケルのエンターテインメントの世界を可能な限り再現する」という彼の壮大なプロジェクトが始まった。PVを始めあらゆるライブやコンサート映像を見て、ダンスから細かいしぐさ、目線の動きや表情までを徹底的に研究。ひとりだけでは再現性が足りないと気づいてからは、ファンサイトでバックダンサーを募集し、照明や設備、演出、撮影まですべてにおいてマイケルのエンターテインメント世界に総合的に関わってゆくユニット、mj-spiritをを創りあげていく。

自らもダンスユニットを組み、イベントのオーガナイズにも関わっていたgorillaが麻布十番の祭りの屋台で彼らのパフォーマンスを見た時、「これはコアな層だけじゃなく、マイケルを知らない一般の音楽ファンや、ストリートダンスやクラブシーンにも絶対に受け入れられるはずだ」と確信したという。「イベントでDJが回す音楽にただ踊るだけという形骸化したスタイルに我慢できなくて、クラブってもっと自由なスペースなはずだし、彼らとならその可能性をもっと追及できる」と、「ネバーランド」と題したイベントなどを仕掛けることによって、mj-spiritはより多くの人々に認知されていく。

もちろん、マイケルのマネをしたりコピーをする人は彼らだけではない。しかしその中で今mj-spiritが特異な位置を占めているのは、'90年代以降のストリートダンスの流れから出てきたわけではなく、「マイケルのショーを再現することで同じ快感を味わいたい」という、bluetreeのある種の執拗なまでの“妄想”から生みだされているということだ。「もう最初に完成形が見えてるんです」。そこへ向かって一歩一歩近づいていくプロセスがあるだけ。だからモノマネ芸人のようにマイケルをメタファーにして自己表現や主張をするつもりはない。コピーバンドが次第にオリジナル楽曲を制作していくような、つまりmj-spiritのオリジナルのダンスも基本的に存在しないのだ。むしろ「自分を消すことでマイケルと一体化する」ことが究極の目標。なにやら能や歌舞伎のような、伝統芸能の“型”の秘訣を聞いているようではないか。

「ダンスチームというよりは、劇団のように“一座”と呼んだほうが近いのかもしれないですね。やるのも〈曲〉じゃなく〈演目〉という感じ。ダンスのスキルよりも、俳優に求められるような演技力が必要ですから」。そうして実際に現れるそのパフォーマンスの精度は目を見張るものがある。同時代でマイケル知らなかった人や、親がマイケルのファンだったという若い世代たちが、mj-spiritのステージを観て本物のマイケル・ジャクソンに興味を持ち、その究極のエンターテイメントの世界を発見するという例も珍しくない。そして目にする本家のライブ映像が、bluetreeと全く同じ動きをするという驚きの“逆デジャヴ”現象に襲われるというからスゴイ。こうしてマイケル・ジャクソンの魂は永遠に受け継がれていくのだ。

http://mj-spirit.com/

Interview&text : Eiji Kobayashi


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