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 東京文化圏で暮らしていると、大阪っていうのは、やっぱ得体の知れない世界/存在である。ふらっと2,3日歩いただけでは、その街のもつ奥深さはほとんど理解できないし、圧倒的なよそ者感を味わう。が、いったんそこに住む人たちとリアルな関係を結べると、一挙に道が開けるというか、グッと密着した距離感で人間関係がふくらんでいくのも確かだ。もちろん東京にも良いところはいっぱいあるが、その質は大きく異なっている(言うまでもなく優劣ではまったくない)。たとえば言葉の違いもその大きな魅力のひとつで、芸能やお笑いの豊かな土壌は誰もが認めるところだし、文学でも織田作之助なんか何度読んでも感動してしまう。柴崎友香の小説に出てくる女の子の会話なんて、関西弁というだけでむっちゃ可愛さが倍増しているような気がする…のはオレだけだろうか? 音楽シーンにしても、レゲエやソウル、ファンクなどは東京より熱く、よりアンダーグラウンドなレベルで定着している感がある。とにかく郷土を愛する気持ちや共同体意識はどこよりも強く、それは「美しい国」といった薄ら寒いスローガンとは根っからの無縁である。

 そんなことを改めて考えたのも、今回紹介するfullgallopを聴いたからだ。彼らの歌詞はすべて普段話している関西弁で書かれ、しかも音楽はフォークなんかではなく、圧倒的にロックかつパンクな音なのだ。彼らが出会ったのは、シャ乱Qを輩出したことでも知られる、あのシロテン(城天)だという。ボーカル&ギターのノンペは当時アコースティックの弾き語りで、ベースのブランカとドラムの将治(マサジ)はそれぞれ違うバンドで活動していた。シロテンの同じブースでやっていたこともあって、次第に仲良くなり、バンドを始めたい(「一人は寂しい…」)と思っていたノンペがメンバーを募るうち、メンバーの入れ替えを経て最終的に今の2人が加わって現在の形になったのが1年前。以来、サービス精神あふれる独特のパフォーマンスも話題となり、大阪インディーズシーンで注目を集め、毎週レギュラーでライブ活動を展開。今年に入って、“人情パンク”とのキャッチフレーズで東京にも月イチで進出。そして8/31にはここmorphで初のワンマンライブに挑むのである。

 そんなfullgallopの代名詞ともいえる名曲が、全篇に地元愛あふれる“わが町”賛歌。〈JET〉だ。詞を書く題材はつねに「街の風景とか、街のおっちゃんのこと、自分の身に実際に起きた出来事」とノンペが言うとおり、そこには懐かしくもリアルな街の姿が活写されている。「水撒きしてるおばちゃんも/串かつ屋からもれる煙も笑い声も」といった何気ないがくっきり景色が見えてくる的確なコトバ。そして、「バス通りから一本入ったちっちゃな商店街/Vシネマに出てきそうな ベタな会話/何べんでも会いたなんねん 俺」といった実感あふれるフレーズが心地よい。都会のなかに埋れがちな、小さくも人情あふれる豊かな世界を愛おしみ、「みんなもいっぺんはおいで/めちゃ暖かい街なんや」と呼びかけるのは、意識せずともDNAに刻まれた、大阪庶民の太〜い伝統の上に確かにあるものなのだ。

 そして改めて言うが、これらが今やストリートにあふれかえるギターデュオや新世代フォークではなく、激しくパンクに叫ばれるところがfullgallopの新しさであり、素晴らしさだ。逆に言えば、歌詞世界がパンク本来のアナーキズムとかけ離れているところが、階級とは無縁にアナーキーな身振りと模倣に終始する従来の日本のパンクに風穴を開けるという逆説を孕んでいるということでもある。この社会に存在しないかのように隠蔽されてきた「階級格差」を、今こそリアルな実感として可視化することから始めなければならない。いや、まだそこまで彼らの意識は先鋭化されていないのかもしれない。しかし、それより早く、すでに音にその萌芽は表れているのではないのか? とにかく「人情×パンク」のディープな可能性にぜひとも耳を傾けてほしい。

 ちなみに8/31のワンマンは、これで集客できなかったら東京撤退、じゃなくてバンド解散!!という命懸けのライブである(&morph社長のクビがかかっているらしい…)。なんと大阪から地元ファンがバス貸し切りで六本木まで乗りつける逆甲子園状態の応援団があるというが、こちら東京勢もそれに負けずに乗り込んで、パンクな共闘をはかろうではないか。その日がくるまで、彼らは都内でストリートライブを各所でゲリラ敢行の予定だという。最初で最後になるかもしれぬ(!?)大きな打ち上げ花火を見上げる日まで、彼らとともに“全速力”でこの夏を駆け抜けようではないか。

http://www.publicmusicworks.net/artists/fullgallop/top.html

Interview&text : Eiji Kobayashi


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