2月の「GO GO SUMMIT vol.7」でも鮮烈な印象(と残像…)を残した、徳島を拠点に活動するバンド四星球。中国語読みで「スーシンチュウ」と読む。彼らのライブを観た誰もが抱く疑問、それは___“なぜ彼らはブリーフ一丁なのか?”である。上着は着ているものの下半身は当然のごとくブリーフ姿で現れ演奏しだすギターやベース、そこにボロボロのスーツ姿で登場したボーカルが、歌い、叫びながら纏う衣服を脱ぎ捨て、ブリーフ一枚となってステージを暴れまわる。呆気にとられる観客に追い撃つように、今度はフロアに降りて全身で何本もフラフープを回しだす。
北島康雄(vo.)まさやん(gt.)U太(ba.)(+ドラムは現在サポートメンバー)による四星球は、2002年に地元徳島にある大学のサークルにて結成された。ちなみにバンド名は「『ドラゴンボール』で悟空が最初に手にした球」が由来だそうだ。「最初は青春バンドでした!」とU太は言うのだが、メンバー脱退をうけてカツ丼一杯をエサにに引きずり込まれた一年後輩のまさやんによれば、「最初観た時は、下ネタばっかりやっていた」と証言する。「でもまだオモシロTシャツを着てた」ぐらいで、現在の“正装”ではなっかったという。最初は目立ちたいとか、他の対バンと差がつけたいといった理由だったのだろうと推察されるが、肝心の北島に聞くと、「いつからそうなったか正直覚えてないんですよね。気づいたら脱いでいたというか……」。念のために確認しておくと、彼らはお笑いグループではない。
ややもすると見かけ倒しのコミックバンドのように聞こえるかもしれないが、四星球は決してそれだけではない(、と思いたい)。彼らのパフォーマンスに目が慣れたら、ちょっと歌詞も聴き取ってみよう。そこにあるのは、言えぬ思いを胸に一杯詰め込んだ男子の切ないラブソングや、この世界へのどうしようもない存在論的不安を歌った魂の叫びなど、意外とブンガク的な世界だったりするのだ。何を隠そう、彼らはみな教育大学で学んだ高学歴の面々なのである。しかもメンバー全員が教員免許を持っている(!)。彼らが教師への道を選ばなかったことを神に感謝しよう。いや、音楽という賭すべきやりたいことを見出した彼らを祝福しよう。
考えてみれば、「音楽」や「バンド」というフォーマットが自明のものである、というのは単なる思いこみで、あるべきカタチなどというものは決まっていないのだということは常に疑ってかかる必要があるだろう。人が本当の意味で死んでしまうのは、多様で異質な他者を受け入れ、かつそれによって自分自身も変容し更新させていくという勇気と意志を失ったときだ。morphで紹介してきたアーティストはみなそう一考させる面を持っているのだが、四星球――彼らが果たしてバンドなのか? パフォーマーなのか? ロックなのか? お笑いなのか? 単なるバカなのか? その問いこそが、あらゆる境界を揺るがせ、不安定にし、「意識」という人間の最も強固な牢獄を穿つ力を秘めたテロそのものなのだ。その壁を突き破れた者にだけ、笑い、泣き、怒り、叫ぶ、権利がある。
もちろん四星球がそんなことを考えているかどうか判らないが、ある種のトリックスター的な存在でいることには意識的なようだ。「普通のバンドたちのとこに混ざってやるのが好きやし、そこで浮くことが好きやし、変わったことやる人らの中でやるのも好きやし……」。北島はそう考えながらつぶやいた。「説明するより観てもらうしかない」とは彼らを見た誰もが口にする言葉だが、あえて言うなら、「サーカスみたいなもんですかね」とU太が答えた。ああ、なるほどと頷く反面、それでは言い足りないなとも思う。なぜなら、異質なよそ者を「サーカス」と名指して安心して享受するのは、彼らを檻(天幕)の中に閉じこめて排除を正当化することにも他ならないからだ。四星球のパフォーマンスはそのような見せ物ではないし、安全ブツでもない。本人たちは口にしないが、笑いをとりながら実は見た目以上に危険な存在かもしれない。しかし、常にそういった緊張関係に身を置くことで初めて実感できる生のダイナミズムこそが、ライブの醍醐味というものだろう。
これまで各所で数千枚を売り上げ好評だった3枚の自主制作盤を引き継ぐ形で、4月にはついにフルアルバムが全国一斉発売されることが決まっている。オリジナル13曲に、特典でDVDもついてくるというから、まずはそこでアナタの脳みそを確かめて欲しい。morphでも年内にメインアクトが予定されている。
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