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 ステージにひとつの磁場が生まれていた。パーカッションとアコースティックギターにボーカルというシンプルな構成ながら、その前に出演した大所帯のバンドが演奏した「音楽」とは比較にならないほどに、大きな「世界」を感じさせた。会場にいた誰もが3人の発するエナジーに引き込まれていくのがわかった。  

菊(kiku/唄)、一(hajime/六弦)、真(sin/打楽器)によるテノヒラの音楽は、紡ぎだされる歌詞の世界とは別に、いやそれ以前に、ある壮大な風景をリアルに感じさせてくれる。まるで人類が初めて手に入れた楽器としての声が、一筋の風に乗って大地を駆け巡るようなプリミティブな世界。ネイティブアメリカンやアボリジニやアフリカの先住民、草原や砂漠を自在に渡り歩く遊牧民など、彼らのもつ魂の宇宙に触れるのとどこか同じ感触があるのだ。  

3人が共に活動するようになったのは1年ほど前のこと。もともと菊が大阪で組んでいたバンドに真が加入して、メンバーが次第にそれぞれの求める方向性へと分裂していく中で、近い志向を抱いていた2人が残った。そして東京に出てきてギターを探すうちに、知人の紹介から一と出会う。「実はエレキギターしか弾いたことなかった」という一がアコギに転向し、「決まるまでにもいろんなギターの人とも演ったんだけど、キレイな落ちついたアコギを弾く人はいても、一ちゃんみたいに勢いのあるギターはいなかった。私たちが求めてたのは上手さよりもその大胆さだった」。以来ライブを重ねる中で、現在にいたる唯一無二のスタイルが形作られていく。  

作曲したというよりは「産み出された」というに近い曲たちは、すべて菊から生まれたものだ。出てくるのに楽器は何も使わない。「鼻歌です(笑)」。そして思い浮かんでも吹き込んだりメモしたりするのではない。「ずっと温めて温めて詞を乗せて、身体が覚えている曲だけを2人に発表します。忘れてしまう曲は、きっとそれぐらいの曲だと思うんです」。その源は自らの考えや経験だけでなく、人から聞いた話から感じる悩みや想いを受けて、「誰かひとり伝えたい人のために書くときもある」。大らかなリズムに乗りながらも、歌われる内容はとてもパーソナルなことだったり、日常の中に埋れがちな、見失ってはいけないささやかだけれと大切なことだったりする。でも本当にそこからしか始まらないのだ。僕らの想像力は大きいようでいて小さい。でも身近なところから広げていけば、空よりも広くなる。  

エミリ・ディキンスンのこんな詞が頭に浮かんだ――「脳は空よりも広い/脳と空を並べれば/脳が空を/そして傍らにいるあなたを/たやすく飲み込むから」。命となって産みだされた曲は、聴き手のイメージを喚起し、受け取ったそれぞれの心の中で翼を得て羽ばたいてゆく。  

菊が音楽を志す前から想っていたことは、何か人の役にたちたい、そのために自分にできることはないかということだった。子供の頃からテレビでアフリカの難民のレポートを見たりすると、無償に心が動いた。ボランティア活動がしたくても具体的な行動がどうすればいいかわからないでいた時、アレサ・フランクリンを聴いて衝撃を受ける。「私が求めてたものはこれだ!」と。ブラックミュージックやルーツをたどるとそこにもアフリカがあった。「自分の中にあるものと合うというか、聴いてても歌ってても気持ちがいい」。音楽を通してのボランティアの旅が始まったのだ。  

一にとっての衝撃はジミヘンだった。最初有名だからと聴いた時は何も分からなかったが、ある時に度重なる偶然があって自分の中に入ってきた。そして彼が終生抱いていた「切なさ」に共感する。  

ドラムを始めた頃はビジュアル系バンドだった(!)という真は、生身の掌で叩くその微妙な加減で様々な表情を見せるパーカッションに出会って虜となる。取材中も終始無口だった彼だが、「音楽を通して何かを変えたいね」、ここだけは大きく言葉を発した。「大げさかもしれないけど、その辺には、スゲエ、やってみせるっていうか。それがオレらの最終目標」。彼が影響を受けたというボブ・マーリーやスティービーのことが重なる。  

テノヒラ、この名前の意味を訊ねると菊が応えた。「手の平は身体の中で一番温かい感じがするし、手当ての言葉の通り、怪我や病気も治す力もある。皮膚の色が違っても、手の平の色は皆同じ。そして赤ちゃんが目に見えるようになって一番最初に見る自分の体の一部は手の平なんです」  

そして僕らはテノヒラの歌と音楽を聴き、心のなかで3人としっかりと握手を交わし、いつまでもおしみない拍手を送るのだ。

http://sound.jp/tenohira/

Interview&text : Eiji Kobayashi


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