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 今、morphのライブチケットが最も取りにくいアーティストのひとつがワカバであることは間違いない。3月に行なわれた3Daysワンマンライブでは、プレイガイド発売もないまますべて一気に売り切れてしまった。地道なストリートライブから築き上げたファンとの強い絆。ワカバもファンも、お互いが待ちに待った熱い、熱い3日間。その時ステージ上からフロアをとらえた1枚の写真には、手前から奥までぎっしり詰まった人々の、はち切れんばかりの笑顔が、画面いっぱいに輝いている。そして5月24日、ミニアルバム『みんないいひと』を発売。7月には会場もドドーンと拡大し、Shibuya O-EASTでのワンマンライブも決定している。

改めておさらいしておくと、ワカバは亀田大、松井亮介、塚本伸男によるユニットだ。ただ少し変わっていて、塚本は作詞のみに参加し、ステージでは亀田と松井の2人によって行なわれる。もともと3人は専門学校のクラスメイトだった。といってもその専門は音楽とはまったく関係なく、福祉の専門学校だった。最初は遊びでギターを覚え、そのうち3人で集まってオリジナルの曲をつくるようになって公園で歌いはじめる。就職の選択を迫られる時期が迫って、塚本は老人ホームで働くことを決めるが、亀田と松井はミュージシャンとしての可能性を試してみようとする……。

その後、彼らはストリートでのいくつかの幸運な出会いによって今へつながるチャンスをつかんでいくことになるのだが、その音楽を根本のところで支えている精神は、実は福祉でつちかった「他者への想像力」ではないかと僕はにらんでいる。成功を夢見る成り上がり的な自己実現願望を強く持っていたわけではなさそうだし、かといってわかる人だけ解ればいいといったような、小さく自分の世界に閉じこもってよしとする自己満足に浸っているのではない。なぜなら彼らの「表現」とは、一方通行なそれではなく、「コミュニケーション」と同義な行為に他ならないからだ。その相手はリスナーや観客と名指される以前の、1人ひとりの“あなた”である。そして可能性としては誰でもでありながら、決して即全員とはなり得ないことも自覚している。そのことが一切の戦略や狙いとも無関係に、自然に身についているところが、彼らの最大の強みであり素晴らしさだろう。

「自分たちが思ったこと、感じたこと、体験したことが歌になって、それを人それぞれ聴いてもらって、それでその人が思ってくれたことががすべてであると思う。それがいい歌だなとか、自分もこうしようとか思ってくれたらもちろん嬉しいですよね。曲をつくってる時はそんなことあまり考えないで書いてるんですけど」(亀田)。

「お客さんがライブに来てくれるっていうのはやっぱりすごい幸せなことだし、こっちも聴いてもらえて嬉しいという感謝の気持ちがあるんです。その上お客さんから“歌が聴けて良かったです。ありがとうございます”とか言われるなんて、そんな幸せなことってないと思うんですよ。やりがいのある仕事っていうか、“音楽”ってスゴイなって思いますね」(松井)。インタビューでの言葉どれをとっても、そこに宿っている精神の確かさを感じさせるものばかりだった。

彼らのHPには、通常のミュージシャンのサイトに比べてかなり多くの歌詞が載せられている。それを読んでみると、シンプルな表現ながらも、いかに「自分の言葉」で綴られているかということに気がつくだろう。そして常に今の自分を見つめ、葛藤や悩みを抱えていても前に進んでいこうという強い意志が貫かれていることに励まされるはずだ。“生命にとっての唯一の時間は未来への前進である”―――僕はある哲学者の言葉をふと思い浮かべた。

ミニアルバムの冒頭を飾る〈ゴジラ〉は、「ワカバとしてやってきた中の、過去であったり、心の中であったりとか、思ってること、その現状をやっぱ書きたいなと思った」(松井)というように、これまでのワカバの軌跡をたどりつつ、今の自分の気持ちを素直に歌った象徴的な曲だ。他にも、頑張っているすべての人に捧げる〈WINNER〉や、恋愛で体験する人とのつながりの喜びを称える〈ラクガキ〉では塚本ならではの作詞世界が堪能できるし、初挑戦したカバー曲〈未来はゴミの山の中に〉では新たなワカバの可能性も感じさせてくれる。

「やってきたことはずっと同じなんですけど、人に伝えたいっていう気持ちは大きいと思いますね。今回またCDを全国で出せるというチャンスをつかんだのはすごく自信になりますし、これからもどんどんライブをしたいです」。アルバムを聴きながら、彼らのコミュニケーションの輪が幾重にも広がり、大きくなっていくのが、僕にははっきりと見えた。

リリース情報
5 / 24 ミニアルバム「みんないいひと」全国発売決定!
*全国のCDショップでご予約いただけます。
http://www.wakaba123.com/

Interview&text : Eiji Kobayashi


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