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 どんなに情報化が進み、地方都市やサバービアの風景が均一化されようとも、人間である限り、決して郷愁というものは失われることはないだろう。毎号このブックレットの表紙を飾るリリー画伯の傑作小説『東京タワー』(祝100万部突破!)を読んだ人なら、誰もが自らの故郷や出自に思いをめぐらし、胸を締めつけられたはずだ。そして今回紹介するfeel my wayの〈紀勢線〉を初めて聴いた時も、胸の奥の琴線に触れて、キュンとしたのだった。

 feel my wayは、えりか(Vo.Key)と大介(Gt.Cho)による関西発の注目の男女ユニット。透き通る歌声と温かいギターの音色が絶妙にマッチして、まるで自分だけのために歌ってくれているような温かさで身を包んでくれる。そんな2人の出会いは、1998年にそれぞれ違うバンドで出場した音楽祭でのことだった。「舞台の袖で大介が声をかけてきて」意気投合し、翌年にfeel my wayを結成。当初は5人編成のバンドだったものの、2人の音楽性と持ち味を最も活かせるフォームを試行錯誤した結果、2000年にユニットとして再結成し新たにスタートすることになった。以来、「素直で胸にぐグッとくる音楽をたくさんの人に届けたい」との思いで、ライブハウスやカフェ、バーなどでも活動。着実にその音楽の輪を広げ、現在、〈紀勢線〉が朝日放送系列の『旅サラダ』(毎週土曜午前8時〜9時半)のエンディングテーマとしてオンエア中。この3月にはミニアルバムの発売が予定されている。

 そのタイトル通り、〈紀勢線〉は紀伊半島を海沿いに走る路線で、「中学校まで住んでいた私の故郷を歌ったもの」(えりか)という。筆者の故郷とは関係はないし、一度も乗ったことさえないのだけれど、歌われている風景や、久しぶりに訪れた故郷で甦ってくる感覚やこみ上げる感情は、とてもリアルに実感できるものだった。それはこの曲に限らず、恋する女の子の心情を歌った〈WISH〉や〈こんなにも長い夜になる〉、2人の目指す音楽の提唱でもある〈STYLE OF MUSIC〉でも同様に言えることで、だから「いつも実体験をもとにして曲を作るのですか?」とついつい愚問を投げかけてしまったくらいだ(もちろんそこはちゃんと「秘密」にしてくれた)。「父がギターをやっていて、家族みんな歌が好き」だったというえりかは、友達がピアノを習い始めたのを見て「私も習わせてもらった」のがきっかけで音楽を始めるようになった。初期のユーミンから、小野リサ、洋楽なら70年代のキャロル・キングなどが好きという通り、その影響は歌詞にも曲作りにも充分うかがえて、幅広い世代に共感をよびそうだ。実際にライブには「若い学生の女の子からOL、50代の男性まで」が訪れる。それでも曲作りにはいつも、「あんまり共感されないんじゃないか」という不安を抱きつつ、「でもここは絶対入れたいって思う言葉とかは独断と偏見で入れたりする」と、揺れ動くリアルな心情を告白してくれた。「微妙な女心とか、“女の子はいつもこんなこと思ってるねん”みたいなこと、すごい言いたくて(笑)。男の子の視点からの歌詞も書いたりするんですけど、それが理想であったりもしたり(笑)」と、彼女の感じるままの気持ちが、feel my wayには絶妙にブレンドされている。

 そこで思いだされるのは、えりかも大介も共通して好きだというボサノバの世界だ。今から40年以上前にボヘミアン的な若者たちによって生み出され、“新しい傾向”と名づけられて、やがて世界中に広がっていったこの音楽は、ジョアン・ジルベルトによる独特のギター奏法とつぶやくような歌い方だけでなく、ポルトガル語がブラジルに渡ってから原意以上にその意味を多様に変奏させた、あの「サウダージ」という独特の感情を表現するのにぴったりだった。「ここにあるはずのものがない」という状態から発生するあらゆる感情――淋しさ/悲しみ/切なさ/懐かしさ/甘さ――そして未だ見ぬものへの「憧れ」さえも希求する想い。それはまさにfeel my wayが紡ぎ出す音楽と通じるところがあるのではないだろうか。

 ありふれた日常生活で埋没しそうな微細な感情をそっとすくい上げ、聴く者の身体の奥の襞にまで“想いあふれて”語りかけてくるタイムレスな音楽。それが多くの人々に、ゆっくりと、だが確実に届いていくのが今からはっきりと見える。

http://www.feelmyway.com


Interview&text : Eiji Kobayashi


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