花粉が例年の何十倍も吹き荒れる3月半ばの夜、渋谷のとある地下のライブハウスにインディーズバンドたちが結集していた。ある種のお祭り的雰囲気が漂い、それぞれのバンドがショーケース的な演奏を披露して次へとバトンタッチをしていく中にあって、セッティング中から他とは明らかに異質な雰囲気を醸し出し、なにかに苛立ちをぶちまけるような圧倒的パフォーマンスを繰り広げるバンドがあった。一瞬にしてその場にいた者すべてを釘付けにしてブッチギリ、見事にその夜のトリを務めたのが、MALCOだった。
宗ひろし(VO&G)松浦たく(B)みん(Dr)からなる3ピースバンドMALCOは、2001年に結成された。2003年より渋谷・下北沢を中心に精力的なライブ活動を展開し、昨年10月に発売された最新ミニアルバム『気晴らしは重要だ』がインディーズチャート上位にランクイン。そして2005年夏、満を持してメジャーステージに登場する。
何よりまず、彼らのライブアクトを体感してほしい。「てめえのその日常からクールに逃げてるふりすんじゃねえ!」と言わんばかりの“リアル”を容赦なく浴びせかけ、骨太のリズムとビートを身体に染み込ませ、その言葉で聴く者の脳内に侵食し、全身を駆け巡る。幸運にもMALCOに遭遇し、見事に被爆できた奴らは、目の前の世界がそれまでとはガラリと変わって見えることだろう。それに気がつかないガキならば、一生「おかんの乳でも吸うとけ!!!」(〈ビタソング〉)。
では、そのリアル=現実とは何か。全曲の作詞を手がける宗のこんなメッセージがある――「この星は人間のために回っているのではないし太陽も人間のために微笑んだりはしない。そう錯覚してしまうほどの幸福が人間の日常には溢れている。それをつくりあげたのも人間。(…)“無意識という意識”で目を背けたいリアル」。だからといって彼のリリックは、大上段からたたきつける理想や、自らを棚に上げて他者をこき下ろす批判からなっているのではない。その目線はつねに目の前の日常に注がれ、自己への不満もないままで泳ぎもがく生活の実感から出てきたものだ。
「自分が特別とは絶対思ってない。だから逆にそのまま思ってることを歌詞に書けばみんなも聴くんやないっかって。オレはスゴイ!なんて思ってる人の歌なんて僕は聞きたくないですね」(宗)。「世界の中心でない」ことの自覚。またそれを求めて忘我し、そこに耽溺すべきでないことを確かに知っている者。「僕はただ、今ある事実をそのまま歌いたい。歌になってない題材はたくさんあるし、世の中にはあるべき歌がないような気がよくするんです」(宗)。スタイル先行の、雰囲気のいい、カッコイイ、けどそれだけの歌。そんなものに飽き飽きしているのなら、ぜひMALCOを聴いてほしい。「みんなに好かれたいとかイイと言われたくて音楽やってるんじゃない。それは聴いてる側もしっかりわかってると思う」(宗)。MALCOの音楽が届くところはまだまだ点在しているはずだ。
そして、彼らの世界観を伝えるもう一つの特筆すべき要素が、パンク精神みなぎる容赦ないパワフルなサウンドだ。その核にあるのは身体の底から突き上げるような強烈なドラム。ステージ後方から雄叫びのように響く激しいリズムが、実は小柄な女性ドラマーから生みだされていることに気づいて、最初は誰もが耳を疑うことだろう。その上をオリジナリティー溢れるメロディーラインとクセのあるボーカルが絡み合い、さらにたくのストレートなコーラスがたたみかける。3ピースとは思えない厚みのある一体感をもったサウンドが、音という共通言語で感情と響きあって倍増していく景色は、それだけで充分に解放され得る説得力がある。
「音楽によって世界を変えようみたいな、そんなつもりは全然ないですよ。でも、自分がそこまでの力を持っていると実感したときは、何かするかもしれません」(宗)。今やるべきことはメンバー自身がしっかり分かっている。「レコーディングやって、CD出して、いっぱいライブやってどんどん磨いていって、どこでもどんな規模のライブでも、いつも通りプレイができるように日々頑張るだけ」(たく)。「この3人で早くツアーがしたい」(みん)。その先には必ず、MALCOによってリアルに対峙する勇気をもらった若者たちが待っているはずだ。
Interview&text : Eiji Kobayashi